毎日、うだるような暑さが続いています。販売車のドアを開けるたびに熱気がむわりと押し寄せてきて、保冷剤の減りも例年より早い。「今日も暑いですねぇ」が、お客様との最初のあいさつになっています。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
つい、「早く涼しくなってほしい」と思ってしまうこの頃。ところが暦をめくると、八月七日のところに「立秋」の文字があります。この暑さの真っ最中に、暦の上ではもう秋が始まるのです。ずいぶん気が早いなと思ってしまいますが、昔の人の季節の数え方を知ると、どうもそうでもないらしいのです。
一年に季節はいくつあると思いますか?4つ、ではありませんでした。昔の人は「立春」「夏至」「霜降」などの二十四節気で一年を二十四に分け、さらにそれを3つずつに分けた七十二候というものさしを持っていました。およそ五日に一度、季節に新しい名前がつく。一年で七十二回です。しかも、その名前がいいのです。さきほどの立秋、その最初の五日間につけられた名前は「涼風至(すずかぜいたる)」。涼しい風が立ち始める頃、という意味です。
まだ猛暑日が続く時期に「涼風」。それでも、夕方の風がふっと変わる瞬間って、ありませんか。昼間はあんなに暑かったのに、日が傾く頃の風だけ少し軽い。昔の人は、その五日ぶんの小さな変化にまで名前をつけていました。暑さが去るのを待つのではなく、暑さの中に秋のかけらを探していたわけです。
そうやって感じ取った季節は、そのまま食卓にのぼりました。春には山菜や桜餅、夏にはそうめんや涼やかな甘味、秋には栗やきのこ、冬には鍋料理やぜんざい。季節は「見るもの」であると同時に、「味わうもの」になっていったのでしょう。桜が一年中咲いていたら、今ほど春を待ち遠しく思うことはないでしょう。栗も一年中食べられたなら、秋の訪れを知らせる特別な味にはならなかったはずです。限られた時期にしか出会えないから、その味は季節の記憶になる。旬の食べ物には、その年の空気や景色、家族や友人との時間まで重なっていきます。
パンもまた、季節を映す食べ物です。春はいちごや桜。夏はレモンやパイナップル。秋は栗やさつまいも。冬はりんごやチョコレート。季節が巡るたび、パンも少しずつ表情を変えていきます。私たちはパンをお届けしているだけでなく、季節の訪れも一緒にお届けしているのかもしれません。
今月は、昨年ご好評いただいた京都・文の助茶屋のわらび餅をご用意しました。お茶と甘味をいただきながら心を整える「一服」のひととき。冷たいわらび餅を味わい、お茶を飲みながら、ほんの少しだけ手を止める。五日に一度季節が動いていることに気づけるのは、案外そういう時間なのだと思います。
とはいえ暑いものは、やっぱり暑い。それでもこの暑さがあるからこそ、木陰を抜ける風の心地よさに気づき、冷たい甘味のおいしさに笑顔になれるのだと思います。立秋を過ぎたら、夕方の風に少しだけ耳を澄ませてみてください。あなたのそばにも、涼風至。今年の夏が、皆さんにとって季節を味わう豊かな夏になりますように。
