柔らかな風が街をそっと包み込む季節になりました。道を歩けば、少し大きなランドセルを背負い、ブカブカの制服に身を包んだ子どもたちの姿。緊張とワクワクが入り混じったような笑顔と春の空に響く笑い声を、ひらひらと舞う桜の花びらがそっと応援しているようです。
4月は新しい年度のはじまりですね。新しい環境、新しい人との出会い、生活リズムの変化など、小さな変化がたくさん生まれる季節でもあります。にぎやかで明るい空気に包まれる一方で、私たちの心と体は、知らず知らずのうちに緊張したり、無理をしてしまったりすることもあります。そんな時こそ、自分を整える「静かな時間」が必要だったりします。
パンづくりの工程の中に、「ベンチタイム」と呼ばれる時間があります。これは、こねあげた生地を分割したり丸めなおした後に、一度そっと休ませる時間のことです。この時間に生地はゆっくりと落ち着き、やわらかく扱いやすくなっていきます。このわずか10〜20分ほどのベンチタイムを省いてしまうと、生地を次の形に変えるときに、うまく伸びなかったり、縮んでしまったりして、パンがきれいに仕上がらなくなるのです。なんでもないような、このわずかな休憩時間が仕上がりの質に大きな影響を与えるのです。
これは、私たちの毎日にもどこか似ているような気がします。忙しい日々に追われたり、変化の続く中で緊張した状態が長く続いたりすると、心に余裕がなくなってしまいます。そんなときは、パンのように「ふくらむ前の静かな時間」を持つことが、とても大切ではないでしょうか?
このベンチタイムには、パンの生地が休まる為の適切な「環境(温度と湿度)」と、ある程度の「時間」が必要です。私たちのベンチタイムにも「自分に合った環境」と「少しのゆとりある時間」が必要だと言えそうです。最近少し頑張りすぎているなと思ったとき、いろいろな環境の変化が重なったとき、まずはそんな自分の状態に気づいてあげましょう。そして意識的に時間をとって、自分に合った環境を整えてみることが第一歩です。
たとえば、少し早めに寝る。お気に入りの音楽を聴く。深呼吸しながら散歩する。お風呂にゆっくり浸かる。部屋の模様替えをしてみる。読書をする。美味しいコーヒーを飲む。懐かしい友だちに連絡を取ってみる。大げさなことではなくても、自分が「これ、心地いいな」と思える時間を、自分のために用意してあげましょう。それが、あなた自身をそっと整える“ベンチタイム”になります。
4月は頑張りすぎてしまいやすい季節。だからこそ、自分の変化に敏感になって「今日はここまででいい」「ちょっと休もう」と自分に声をかけてあげてください。あわてなくても大丈夫。あなたのペースで、あなたらしく。パンの生地が静かに休んでふくらむように、私たちも整える時間を持つことで、また自然に動き出す力が湧いてくるはずです。
移動販売での何気ないひとときが、そして美味しいパンが食卓に並ぶひとときが、皆さんにとっての小さなベンチタイムになれば嬉しい限りです。
